【結論】居抜き開業で押さえる5つのポイント
- 内装費は約4割安くなる:坪単価の中央値は居抜き40.0万円、スケルトン66.7万円です。
- 設備はタダではもらえない:買い取り費用(造作譲渡料)の平均は、業態によって136.2万〜324.9万円です。
- 設備が全部動くとは限らない:引き渡しは現状渡しで、動かない機器の修理費は自分の負担になります。
- 契約は2本、相手も2人:家主との賃貸借契約と前テナントとの造作譲渡契約がそろわないと物件を取得できません。
- 営業許可は新しく取得する:前オーナーの許可は引き継げないため、自分の名前で申請します。
気になる物件が見つかったら、造作譲渡の対象リストを不動産会社に請求するところから始めてください。
居抜き物件とは
「居抜き」と紹介される物件でも、残っている設備の量には幅があります。厨房機器も空調もそろい、清掃すればすぐ開店できる物件もあれば、床と壁だけが残った物件も、同じ「居抜き」です。一方のスケルトン物件は、床・壁・天井がコンクリートのままで、厨房も客席も一からつくります。

前の店舗が飲食店なら、給排気の経路やガスの容量も飲食店向けのまま使える可能性は高くなります。それでも残る設備は物件ごとに違うため、何が残っていて何が残っていないのかを一つ一つ確認してください。
【ポイント1】内装費は約4割安くなる
内装工事費と厨房設備の購入費を削れるのが、居抜きの一番のメリットです。厨房機器・空調・排気ダクト・給排水がそのまま使えれば、費用は数百万円単位で下がります。
内装工事費の坪単価は、居抜きの中央値が40.0万円、スケルトンが66.7万円です。1坪あたり26.7万円、率にして約4割の差が出ます。飲食店の居抜き物件は16.0坪が中央値なので、単純に掛け合わせると差は約427万円です。
| 居抜き | スケルトン | |
|---|---|---|
| 坪単価の幅 | 23.7万〜68.8万円 | 40.0万〜98.8万円 |
| 坪単価の中央値 | 40.0万円 | 66.7万円 |
| 坪数の中央値 | 16.0坪 | 17.2坪 |
出典:店舗デザイン.COM「飲食店の店舗デザイン・内装工事費用の相場」(飲食店1361件の実績データ。居抜きは「居抜き・改装」区分の数値)
工事の量が減れば、開店までの期間も短くなります。家賃が発生するのは物件を契約した日からなので、工事期間中は売上がないまま、家賃だけが出ていきます。工事が1ヶ月短くなれば、手元に残るのは家賃1ヶ月分です。売上が立ち始める時期も、その分だけ前倒しできます。
開業資金を抑えられれば借入額も小さくなり、開業後の運転資金に余裕が生まれます。
【ポイント2】設備はタダではもらえない
居抜きで残っている設備は、無償では引き継げません。買い取る費用として「造作譲渡料」がかかり、ここに自分の業態に合わせた改修費と、使わない設備の撤去費も加わります。
造作譲渡料の平均は、最も高い中華が324.9万円、最も低いお弁当・惣菜・デリが136.2万円です。
出典:飲食店ドットコム 居抜き売却「居抜き物件の造作譲渡に関するデータを分析」
※募集時の金額の平均であり、成約額とは異なります。
理想の間取りに合わせて壁を抜き、厨房を移し、配管を引き直すと、費用はスケルトンに近づきます。「安く借りたはずが、結果的に高くついた」は、居抜きでよく起きる失敗です。
比べるべき数字は、家賃や坪単価ではありません。造作譲渡料・改修費・撤去費を含めた総額です。同じ物件をスケルトンからつくる場合の総額と、並べて比べてください。

監修者コメント
造作譲渡料を「残っているものの値段」として見ると、どうしても割高に感じます。金額は設備の内容だけで決まるわけではなく、物件の立地や集客力といった目に見えない価値も含まれていることがあります。私は設備を1点ずつ値付けして合計と突き合わせるより、この場所でこの先どれだけやれるかを考えて、その金額を払ってでも取りたい物件かどうかで決めていました。造作譲渡料ではなく、店舗そのものの買い取り費用として見てください。
【ポイント3】設備が全部使えるとは限らない
残っている設備は、そのまま使えるとは限りません。内見で動かなかった機器が見つかることもあれば、動いても自分のものにならない設備もあります。
物件に残っているものは、見た目が同じでも3つに分かれます。買い取って自分のものになる造作譲渡品、防火扉のように建物に付いている貸主(大家)設備、リース会社が持ち主のリース品です。どれに当たるかで、引き継げるかどうかと修理や撤去の負担が変わります。

特に注意したいのは、リース品です。冷蔵庫や食器洗浄機、エアコン、券売機、POSレジはリースで入っていることがあり、その場合は造作譲渡料を払っても自分のものにはなりません。使えなくなるわけではなく、リース会社の承諾を得て契約者を自分に変えるか、残債を清算して買い取れば、そのまま使えます。どちらになるかは、申し込む前にリース会社へ確かめてください。
造作譲渡品には、そのまま使うものと、自分の店では使わないものが混ざります。使わないものは残置物と呼ばれ、引き受けて処分すれば撤去費は自分の負担です。撤去してから引き渡してもらうか、造作譲渡料から差し引くかは交渉できます。リース品や大型の機器も同じで、引き継ぎたくないものは申し込む前に相談してください。
引き継ぐ設備は、原則として「現状渡し」です。今ある状態のまま引き渡され、そのあとの故障は自分の負担になります。内見のときと引き渡しのときに、実際に動かして確かめてください。

監修者コメント
内見で「使えます」と言われた厨房機器に火が入らなかった、という話は本当によくあります。ダクトの吸引力、エアコンの効き、オーブンの火力、冷蔵庫と冷凍庫が設定した温度まで下がって保てるかまで、その場で動かして確かめてください。もう1つ確かめたいのは、この状態のままで消防と保健所の検査が通るかどうかです。ここを判断できる内装業者に、内見へ同行してもらうと心強いです。
【ポイント4】契約は2本、相手も2人
居抜き物件の契約は、相手の異なる2本立てになります。
- 賃貸借契約:物件そのものを借りる契約です。相手は家主(貸主)になります。
- 造作譲渡契約:残っている内装・設備を買い取る契約です。相手は前テナントになります。

どちらか一方だけでは物件を取得できません。設備を買う話がまとまっても、賃貸借の審査に落ちれば店舗は手に入りません。物件を借りられても設備が買えなければ、厨房のない店舗を借りたことになります。
造作譲渡には、家主の承諾が要るのが一般的です。前テナントと直接話がまとまっていても、家主が認めなければ成立しません。承諾が取れているかは、申し込む前に不動産会社を通して確かめてください。
なかでも見落とすと影響が大きいのは、契約書の特約です。「設備の不具合は免責」と書かれていると、引き渡し後に故障しても修理費は全額自分の負担になります。原状回復の義務がどこまで及ぶかとあわせて、申し込む前に弁護士や宅地建物取引士に見てもらってください。
【ポイント5】営業許可は新しく取得する
造作(内装・設備)だけを買い取る通常の居抜きでは、前オーナーの営業許可を引き継げません。営業許可は店舗の設備にではなく、その店を営む「営業者」に与えられるためです。「前も飲食店だったから許可はそのまま使える」という思い込みは、開店日の遅れに直結します。
例外は、店舗の営業そのものをまとめて譲り受けた場合です。2023年(令和5年)12月13日以降の譲渡であれば、「地位承継届」の提出で営業者を変更できます。ただし、造作だけを買い取る取引は、この例外に当たりません。
自分がどちらに当たるかは、契約を進める前に管轄の保健所へ相談してください。先に相談しておけば、工事のあとで設備の不備を指摘され、やり直しになる事態を防げます。
出典:厚生労働省「事業譲渡に関する手続が整備されました」、東京都保健医療局「事業譲渡による営業許可・届出の地位の承継が可能になりました」
営業許可の取得手順・費用・期間は「飲食店営業許可の取り方」でまとめています。

【記入例つき】飲食店営業許可書の取り方|費用・期間・書き方を最短で理解
飲食店の営業許可証の取り方を、費用・期間・申請書の書き方まで記入例つきで解説。保健所への申請から施設検査・交付までの5ステップ、2021年改正の施設基準や必要書類、有効期限と更新のポイントまで最短で理解できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 造作譲渡料は交渉できますか?
できます。売り手が早く手放したい事情を抱えているほど、価格は下がりやすくなります。感覚で「高い」と伝えるのではなく、譲渡対象のリストと設備の状態を根拠に交渉してください。
Q. 賃貸借契約と造作譲渡契約は、どちらを先に結びますか?
2本は基本的に並行して進みます。物件によっては前後しますが、どちらが先でも、申込金と手付金がどの時点で戻らなくなるのかは、申し込む前に確認してください。
Q. 契約したあとにキャンセルできますか?
できます。ただし違約金を払うか、手付金を放棄することになります。造作譲渡料が返ってくるかどうかは、契約書の定めしだいです。
Q. 前のテナントが閉店した理由は聞けますか?
聞くことはできますが、答えが返るとは限りません。退去理由は不動産会社に告知の義務がある事項ではなく、前テナントが理由を伝えていない場合もあります。「一身上の都合」で止まったときは、造作譲渡の交渉で前テナントと会うときに直接聞くか、近隣の店や区画の入れ替わりの頻度から確かめてください。
開業全体の流れは「飲食店の開業手続き完全ガイド」でまとめています。

飲食店の開業手続き完全ガイド|届出一覧・費用・スケジュールを徹底解説【2026年最新】
【初めて飲食店を開業する方向け】開業準備からオープンまでの具体的な流れを解説。必要な手続きや資金計画、物件や設備選びのポイントを経験談を交えてお伝えします。
まとめ
居抜きは内装費の坪単価がスケルトンより約4割安い一方、造作譲渡料と改修費・撤去費が別に乗ります。比べるときは坪単価ではなく、3つを足した総額で見てください。残っている設備は造作譲渡品・貸主設備・リース品の3つに分かれます。リース品は造作譲渡料を払っても自分のものにはならず、リース会社との手続きが別に要ります。譲渡の対象範囲とリース品の有無は、内見で動かして確かめ、書面で受け取ってください。
契約は家主との賃貸借と前テナントとの造作譲渡の2本立てで、営業許可は自分の名前で新しく取得します。契約書の特約と原状回復の範囲は、申し込む前に弁護士や宅地建物取引士に見てもらってください。
物件と設備のめどが立ったら、次に決めるのは開店後の運営です。予約の受付、顧客情報の管理、日々の売上の把握は、内装と違ってあとからでも整えられます。ただし開店直後は忙しく、手が回らないまま数ヶ月が過ぎます。
Respoは、予約台帳・POSレジ・セルフオーダー・顧客管理をまとめて扱える飲食店向けのサービスです。開業準備と並行して開店後の運営も決めておきたい方は、資料をご覧ください。
[Respoサービス紹介/資料ダウンロード]
★本記事の情報は2026年9月時点のものです。造作譲渡料の相場、内装工事費の目安、営業許可や地位承継の運用は、物件・自治体・年度によって変わります。契約前および申請前には、管轄の保健所と各公式サイトで最新の情報を確認してください。



















