📌 本記事の事例について
本記事の事例は、開業・廃業に関する取材や経営相談で繰り返し見られた経過から、複数のケースを組み合わせて構成したモデルケースです。特定の実在店舗ではありません。

開業前の判断でつまずいた3店
事例1|車が入れる向きを確かめなかった|郊外ロードサイドのパスタ店(10か月で撤退)
① どんな店だったか
幹線道路沿いの15坪28席、駐車場5台。客単価はランチ1,200円・ディナー1,800円、家賃32万円。
都心のイタリアンで8年働いた30代のシェフが、自己資金500万円と日本政策金融公庫からの融資1,350万円で開いた店です。
② 開業からの数字

③ 最初のずれ
通行量は平日の昼に3回数えて足りると判断していましたが、中央分離帯があるため反対車線からは入れず、実際に客が入るのは土日の昼だけで、平日の夜は1日5組でした。

④ ずれが広がった経路
平日夜の客数が読めないまま、キッチンとホール各1名のシフトを固定で組み続けました。人件費82万円と家賃32万円は、粗利では賄えません。迷っている間に、仕込んだ生パスタの廃棄は月8万円分に膨らみました。
⑤ ずれが出てから手を打つまで:7か月
平日夜が1日5組で固まったのは、開業1か月目です。ただ、シフトを組み替えたのは8か月目でした。 この7か月、シフトも仕込み量も変えていません。この店が持っていなかったのは、曜日別・時間帯別の客数でした。
⑥ いまどうしているか
原状回復工事に220万円かかり、公庫からの借入は残ったまま、いまも返済を続けています。
事例2|街の外食単価を数えなかった|私鉄沿線・住宅街のワインビストロ(14か月で撤退)
① どんな店だったか
駅から徒歩8分、住宅街の路面1階。12坪20席で客単価4,200円、家賃24万円。
自然派ワインを80種そろえ、想定客層は「30〜40代の共働き夫婦が、仕事帰りに一杯」。開業資金1,400万円のうち、ワインの初期在庫とセラーに180万円を投じました。
② 開業からの数字

③ 最初のずれ
想定していたのは駅からの帰り道に寄る共働き夫婦でしたが、この街の人が毎晩歩く帰り道は店の前を通っておらず、平日の来店は1日2〜3組でした。

④ ずれが広がった経路
平日を埋めようとランチを始めたところ、ワンオペでは夜の仕込みが回らなくなり、料理の質が落ちました。週末の常連の来店間隔は1か月から2か月に伸び、抜栓後に売り切れないボトルが増えていきます。
⑤ ずれが出てから手を打つまで:9か月
平日が1日2〜3組で固まったのは3か月目です。計画そのものを見直したのは、手元資金が40万円になった12か月目でした。この9か月、客単価4,200円という設定には手をつけていません。
あとから歩いて確かめると、近隣3軒の客単価は2,500〜3,000円で、4,200円はこの街の外食単価の1.5倍でした。
⑥ いまどうしているか
在庫のワインは同業者に原価の6割で引き取ってもらい、いまは都心のワインバーで働いています。
事例3|売上が8割で止まった場合を試算しなかった|デザイナーズ焼肉店(11か月で撤退)
① どんな店だったか
準郊外の駅前、1階路面で30坪48席。客単価4,800円、家賃58万円。
開業資金は2,800万円で、内訳は内装1,450万円、厨房・無煙ロースター680万円、その他670万円。自己資金600万円に公庫融資1,400万円と親族からの借入800万円を重ね、公庫は7年、親族には3年で返す約束にしたため、月々の返済は合計39万円でした。
② 開業からの数字

③ 最初のずれ
計画では月商820万円で営業利益が月60万円残る想定でしたが、実績は8割で止まり、2割足りないだけで粗利は月100万円分が消えていました。

④ ずれが広がった経路
まず削ったのは広告費でしたが、客数は戻りませんでした。仕入を掛けで先延ばしにしたところ、精肉の取引先から現金取引への切り替えを求められます。仕入量を絞ると人気部位が品切れし、せっかく通い始めていた客が離れていきました。
⑤ ずれが出てから手を打つまで:6か月
売上が想定の8割で止まったことは、3か月目の数字に出ています。投資額そのものが重すぎたと認めたのは9か月目です。内装と設備に2,130万円をかけると決めた時点で、月商が8割で止まった場合、さらに6割まで落ちた場合の返済が試算されていませんでした。
見直すべきだったのは、30坪48席という器そのものです。22坪36席なら家賃は42万円前後、内装と設備も1,500万円台に収まり、親族からの800万円は不要でした。返済は月19万円に下がります。計画上の月商は615万円になりますが、その6割の370万円でも家賃と返済は払い続けられます。
⑥ いまどうしているか
破産手続を取り、親族からの800万円も含めて法律上の返済義務はなくなりました(免責)。それでも本人は返すと決め、いまも毎月少しずつ渡しています。金融機関の債務は手続きで整理できても、身内から借りたお金は、そのあとの関係ごと背負うことになります。

監修者コメント
撤退の決断は、たいてい「お金がなくなったとき」になります。でも本当に決めるべきは、手元資金が固定費の6か月分を切ったときです。 6か月あれば、原状回復の見積もりを取って、居抜きで買ってくれる相手を探して、スタッフに次の職場を見つけてもらう時間があります。1〜2か月分になってから動くと、この全部が同時に押し寄せてきて、条件を選ぶ余裕がなくなるんです。
開業後の運営でつまずいた2店
事例4|原価率を決算まで見なかった|オフィス街のカレー専門店(16か月で撤退)
① どんな店だったか
オフィスビルの1階、8坪14席にテイクアウト窓口を併設。客単価980円、家賃19万円、開業資金780万円。スパイスから仕込む本格派で、オープン直後は昼に行列ができ、1年目は黒字で着地していました。
② 開業からの数字

③ 最初のずれ
売上は毎日ノートに書き留めていましたが、原価率を目にするのは決算書を受け取る年1回だけで、仕入値が上がっても数字の上では何も起きていないように見えていました。

④ ずれが広がった経路
スパイスと鶏肉の仕入値は段階的に上がりましたが、価格は据え置いたままでした。原価率が29%から37%へ上がった分だけで、粗利は月20万円減ります。
さらに月商が270万円から250万円へ落ちた分も重なり、消えていた粗利は月30万円を超えます。累計では、300万円以上の粗利が気づかないうちに失われていました。決算書を見てから慌てて50円値上げしたところ、今度は昼の客が離れました。
原価率は戻ったものの、月商は230万円台まで落ち、粗利は結局増えませんでした。
⑤ ずれが出てから手を打つまで:10か月
仕入値が上がり始めたのは5か月目です。この店が原価率を目にしたのは、決算書を受け取った15か月目の一度だけでした。仕入値が動いた月に数字が出ていれば、失った粗利は90万円で止まり、値上げも「原価が上がったので」と説明しやすいタイミングで打てました。
売上が落ちていないときこそ、粗利は静かに削られます。
⑥ いまどうしているか
同じ物件は、別のオーナーが居抜きで引き継いで営業を続けています。本人は食品メーカーの商品開発職に転職しました。
事例5|2回目の来店を数えていなかった|家族経営のうどん店(2年3か月で撤退)
① どんな店だったか
住宅地から車で5分の20坪32席、駐車場8台。客単価850円、家賃28万円。夫婦2人にパート2名。味の評価は高く、開業時には地元紙に取り上げられ、口コミサイトの点数も3.5をキープしていました。
② 開業からの数字

③ 最初のずれ
1回目に来た9人のうち2回目に来るのは2人で、新規は入っても常連が積み上がっていませんでした。

④ ずれが広がった経路
新規を集めるため、月2回チラシを撒きました。撒いた週は客数が戻り、翌週にはまた落ちます。この繰り返しで販促費が月15万円で固定化し、利益はそこで消えました。
止めれば客数が落ちるので、止められません。
⑤ ずれが出てから手を打つまで:18か月
売上が毎月落ち始めたのは3か月目、原因がわかったのは21か月目です。気づくのが遅れた理由はひとつで、誰が何回来たのかを記録していなかったからです。
予約は電話、会計は現金、ポイントカードもありません。この状態では、客数が減ったのか、来る人が入れ替わったのかを区別できません。
⑥ いまどうしているか
保証金は原状回復費と相殺され、ほとんど戻りませんでした。

監修者コメント
家族でやっている店は、赤字が数字に出るのが遅れます。人が足りなければ夫婦の労働時間を増やし、利益が出なければ自分たちの給料を落として埋めてしまうからです。 この店も、販促費15万円は帳簿に載りますが、薄くなった夫婦の給料はどこにも載りません。ご夫婦の人件費を相場の金額で計上した損益に置き換えて、それで赤字なら体力ではなく仕組みの問題です。
同じつまずきから立て直した2店
同じところでつまずいても、立て直せた店があります。違いは腕でも資金量でもなく、ずれに気づいて動くまでの月数です。
事例6|赤字2か月目に時間帯別の売上を見た|商店街のベーカリーカフェ(14か月で黒字化)
① どんな店だったか
商店街の路面、18坪24席。客単価1,100円、家賃26万円。開業資金1,600万円のうち自己資金は400万円、残りは公庫から7年返済で借り、月々の返済は14万円です。パンの製造と店内飲食の兼業で、夜のカフェ需要を見込んで11時から21時までの通し営業でした。
② 開業からの数字

③ 最初のずれ
来店は昼に集中し、夕方以降は人件費だけが残る時間帯になっていました。

④ 動いたこと
赤字が出た2か月目に、この店は次の順番で動きました。
- 時間帯別の売上を出す:レジの記録を集計したところ、14時以降の来店は全体の2割しかありませんでした。
- 営業時間を11時〜16時に短縮する:人件費は月95万円から68万円へ、その月のうちに下がりました。一方で売上も、夕方を閉めた分だけ210万円から175万円まで落ちています。
- 空いた夕方をパンの卸に振り替える:卸先は3か月目に1社、8か月目に2社目と、少しずつしか増えませんでした。
- 売上が積み直るのを待つ:210万円を超えて235万円に届いたのは13か月目、単月で黒字になったのは14か月目です。
営業時間を短縮した時点では、赤字はほとんど縮んでいません。減った売上35万円から失われた粗利が約25万円、下がった人件費が27万円なので、差は月2万円です。
時間短縮で効いたのは、赤字を縮めることではなく、それ以上広がるのを止めたことです。黒字に届いたのは、空いた夕方を卸に振り替えて売上が175万円から235万円まで積み直ってからです。
⑤ ずれが出てから手を打つまで:2か月
この店も、営業時間を含む開業前の設計はそのまま通り過ぎていました。 違ったのは、赤字が出た2か月目に「もう少し様子を見よう」で止めなかったことです。
早く動けたのは勘ではなく、判断の材料になる数字を毎月手元に持っていたからです。
⑥ いまどうしているか
卸先は3社に増え、いまでは売上の3割を占めています。月商は280万円まで戻り、営業時間が5時間短くなった分、人を増やさずに回せています。

監修者コメント
立て直せた店に共通するのは、最初に手をつけたのが「集客」ではないことです。売上が足りないとわかると、多くの人はまず広告やSNSに走ります。 でも実際に効いたのは、営業時間を削る、席を減らす、メニューを絞る、人件費を削るといった、店を小さくする方向の判断でした。攻める前に、いまの売上で黒字になる形を作るのが先です。
事例7|断っていた予約の数を数えた|駅近イタリアン(11か月で回復)
① どんな店だったか
駅から徒歩3分、25坪36席。客単価3,600円、家賃52万円。開業資金1,900万円のうち自己資金は500万円、残りは公庫から7年返済で借り、月々の返済は17万円です。金土の予約は入るものの、月商は伸び悩んでいました。
② 開業からの数字

③ 最初のずれ
予約は電話とノートで足りると考えていましたが、満席として断っていた金曜の実際の稼働率は68%で、36席のうち11席はその日も空いたままでした。

④ 動いたこと
手元資金が50万円まで減ったのを見て、6か月目にこの店が変えたのは2つだけです。
- 予約と顧客情報を一元管理する:どの席が空いているかがすぐにわかり、金土の稼働率は68%から91%へ上がりました。これだけで月商が約60万円増えています。
- 週に1回15分、数字を見る時間を作る:確認するのは客数・客単価・再来店率の3つだけに絞りました。
断っていた平日の当日予約と2回目以降の予約が積み上がり、月商が340万円から470万円に届いたのは、切り替えから5か月後の開業11か月目です。
⑤ ずれが出てから手を打つまで:5か月
断り始めたのは開業1か月目、切り替えたのは6か月目です。この5か月に数えていなかったのは、来た客の数ではなく、自分が断った予約の数でした。
売上が足りない理由を店の外(集客や立地)に探さなかったことが、この店の分かれ目です。
⑥ いまどうしているか
2年目に客単価を3,900円へ改定しました。値上げに踏み切れたのは、どの客が何回来て何を注文しているかがわかっていたからです。常連の注文に合わせてコースを組み替えたので、離れた客はほとんどいません。
月商は500万円を超え、断らざるをえない予約もほぼなくなりました。週1回15分の確認はいまも続き、同じ商圏で2号店を検討する段階に入っています。1店目で溜まった予約と顧客のデータが、そのまま2店目の立地判断の材料になっているそうです。
立て直せた2店がやったことは特別ではありません。時間帯別の売上と2回目の来店率を、毎月見るだけです。ただ、電話とノートだけで営業していると、この2つは集計しようとしても手が回りません。
Respoでは予約・顧客管理・売上分析をまとめて扱えるので、この2つが日々の営業で自然に残っていきます。[資料を無料でダウンロードする]
まとめ|7店に共通していた順序
撤退した5店をならべると、失敗はどれも同じ順序で進んでいました。
開業前の思い込み(通行量、客層、内装のグレード)が残ったまま契約や工事に進み、開業から1〜5か月目で数字にずれが現れます。その時点では気づかず、早い店で8か月目、遅い店では21か月目にようやく手を打ちます。共通していたのは、数字を見て気づいたのではなく、動けなくなってから気づいた点です。
引き返せる場所は、この流れに2つあります。1つ目は契約や発注をする前です。事例1・2・3の失敗は、いずれもこの時点で防げたものでした。2つ目は開業1〜5か月目、数字にずれが出た時点です。事例4・5はここを通り過ぎ、立て直した2店はここで動きました。
1つ目を逃しても、2つ目でなら間に合います。差がついたのは経験や資金の量ではなく、ずれが出てから手を打つまでの月数です。


















